開発チームはエクオールに照準を当て、世界中でまだ誰も見つけていないエクオールをつくる腸内細菌を探し始めました。研究がおこなわれていた佐賀栄養製品研究所は「ファイブミニ」など腸内環境に関する製品を開発していたので、腸内細菌を探す設備やノウハウは充実していましたが、それはとても大変な作業でした。
エクオールをつくれる人が持っている腸内細菌を分析して、エクオールを作る能力があるかどうかを1つずつ調査していく作業が続きます。腸内には無数の細菌がいるといわれています。その特性と役割を1つずつ調べていくのですから地道な作業です。
実験を続けていると数種類のエクオールをつくれる菌が見つかりました。喜んだのもつかのま、これらの菌は食品として使える種類のものではないことが判明。食品に利用するために乳酸菌を探していたのですが、思うようなものは見つかりませんでした。研究は行き詰まり、結果を出せないまま研究はストップ。開発チームにとっては大きな挫折でした。このまま“エクオールを外から補える製品”の開発は終了したかに見えました。
6年後の2002年のこと。“エクオールを外から補える製品”の研究が再開されることが決定しました。ただし4月1日から6月30日までの3カ月と期間が限定され、研究員も3人のみという条件がついていました。「次は必ず」と、このときを待っていた3人はプロジェクト再開の喜びもそこそこに研究に没頭しました。しかし、なかなか有効な細菌を見つけることができません。
「菌が有効かどうかの結果が出るまでに1〜2週間かかります。3人でフル稼働して1000以上のサンプルを次々に分析していきました」(研究員)
寝食を忘れ夢中で世界初に挑戦する試みですが、なかなか成果が出ません。とうとう、6月30日、約束の最終日を迎えてしまいます。もはやこれまで……。
3カ月間の努力もむなしく実験を終了した翌日、7月1日の朝のことです。分析途中のサンプルの中に食品として利用可能な菌(乳酸菌)が発見されました。さんざん失敗を繰り返したため最初は信じることができませんでした。
研究開始から1300番目のサンプル。これが、世界ではじめて発見された、食品にも利用可能なエクオールをつくる乳酸菌「ラクトコッカス20-92」です。
6年間の努力が報われた奇跡の瞬間でした。
次は、発見された「ラクトコッカス20−92」が食品化して安全な乳酸菌なのかを調べる必要があります。増員された研究チームは、世界中の食品に含まれる菌を調査し、イタリアで作られるチーズの中に同種の菌があることを発見しました。これで「ラクトコッカス20-92」が、食品にも含まれる安全な菌種だということがわかりました。その後の研究で、健康な日本人の約40%の腸内にいる菌種だということも判明しました。